甲斐大泉のトラットリア『タダリコ』

長坂I.C.から清里方面に向かう県道28号線沿いには魅力テキな飲食店が数多くあり、このお店も以前からずっと気にかかっていたイタリアンなのである。

土曜日ではあるものの昼時を少し外したせいか先客は一組だけで、混んでいると思い込んでいたボクは少々拍子抜けしたカタチで窓際の眺めの良い席を確保することができた。
気温24℃、暑くもなく寒くもなく心地よい風が開け放たれた窓からそよそよと流れてくる。このところ遠方にお出かけと言えば蕎麦ばかり食していたので「タマにはちょっとしたイタリアンもいいなぁ…」といった希望にピッタリのお店のようだ。
ランチタイムのセットは三種類ほどあったが、何れもいくつかの前菜やパスタそしてメインディッシュからチョイスできるようになっていて、ボクはニッポン人がダイスキな中間の¥1500のセットコースを相方とともにお願いした。



『本日のカルパッチョ


「今日のカルパッチョは鯵になっております」カメリエーレが献立を詳細に説明してくれるし、接客は丁寧で頗るキモチがよい。
新鮮な鯵の切り身にカットされた野菜類が天盛りされ、爽やかな風味のドレッシングがかけられている。非常に繊細な味付けがなされているようで和食にも通ずるような素材の活かし方に感心する。
ウ〜ム、コレはタダモノではないな…そんな話をしながらもう一つの前菜にテをのばす。



『季節野菜のバーニャカウダソース』


“北海道産あおやぎのサラダ仕立て”という前菜と大いに迷ったが、やはり好物のバーニャカウダにしてしまった。
ズッキーニなどの野菜類は生ではなく軽く火を通してあるが歯ごたえや香りを損なわずに絶妙な火加減に収めてある。バーニャカウダソースはどちらかと言うとアッサリしたタイプでボクには若干頼りなげに感ずるものの、一般テキにはコチラの方がクセもなくブナンな印象で食べやすいかも知れない。
赤かぶの葉は虫食いの穴だらけで農薬の使用が控えられているのだなぁと逆に安心して食べられるのには笑ってしまったが、こうした高原ならではの野菜の登場は嬉しいものだ。

しらすと焼なすのスパゲティーニ』
名産地に居住しているせいかシラスを使った料理はあまり注文する機会がない。ヨケーなコトをするよりそのまま喰った方が美味いに決まってるじゃん…という考えが働くのだろう。
今回は焼きナスとの組み合わせに思わずオッ!と思いこのパスタをお願いしてみたが「正直、降参しましたー」なのである。イタリア本国でもイワシの稚魚をピッツァやパスタなどの具としてよく利用するらしいが、そのワケをココで知るハメになるとは思いもよらないコトなのであった。
ペペロンチーノがベースになっているこのパスタ料理は根深ネギのアクセントが効いていて自宅でも再現してみたくなるレシピだ。


『タコのピリ辛トマトソースのラグー』


香味野菜をオリーブオイルでコトコトと煮込みペースト状にしたものがソフリットで、様々な料理のソースベースとして利用される。そしてさらにそのソフリットへ細かく刻んだ食材を加えて作ったソースをラグーと呼び、料理そのものの名前として使われることもある。ソレくらい味のキーポイントとして重要なモノであり、欧州料理には同様なプロセスを用いて作られる料理が多い。
このラグーはタコを細かく刻んだトマトベースのソースで、見た目だけはフツーのボローニャソースのように感ずるが、食してみるとタコの風味がパッと拡がりじつに楽しいお味なのである。


ピリ辛と表記されてはいたが結構な辛味があり、出先のランチでなければビールまたはワインを必ず傍らに据えておきたくなる料理だ。
しかし全てが魚介の風味に支配されているワケではなく、ちゃんと野菜の旨みと香りが基礎になっている辺りがイタリア料理の奥深さを感じさせるものであり、またこのお店の力量が確かなものである証しでもある。
残ったソースはバゲットに乗せて。ブルスケッタのようでとても美味しい。




『ココアのシフォンケーキ』


それまでどんなに素晴らしい料理に満足していたとしても、ドルチェがイマイチだと一気に興醒めしてそのお店の評価はかなり下がってしまうものだ。
コチラはそんな心配は無用のようである。シフォンケーキはどんなお店で食しても当りハズレの少ないスイーツではあるが、ふわりとした柔らかさの中にもしっとりとした食感と香りが調和しているものは少ない。添えられたクリームの質やフレッシュフルーツの酸味、そしてカラメルソースのビター加減が絶妙で、素晴らしい食事のフィナーレにふさわしい出来映えだ。

   ◆◇◆◇◆

「ホントによいお店に巡りあったなぁ」という印象である。
八ヶ岳高原野菜のアドヴァンテージを活かしつつも、無闇に気張るコトもなく各地の優良な素材を集めてはイタリアンとしてお客様にお出しする…そんなシェフの息遣い・心遣いを感じるようなお店なのである。



トラットリア タダリコ
山梨県北杜市大泉町西井出8240-6321
TEL=0551-38-1668
ACT=11:30〜14:30, 17:30〜21:00 水曜定休


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