鰤の照焼  

 そろそろ登場も近いと感じていたのはボクだけではないと思う。魚屋に行くたびに切り身の厚いものなど眼にしては「ムムっ、照り焼きも良いではないか」と盛り上がり始めていた折、母君が都合よく買ってきてくれた。



 妹殿と伊豆の温泉に出かけた母君は帰路沼津の魚屋に立ち寄り、やはり鰤の切り身を見てすぐに照焼と閃いたらしい。
季節がヒトの五感に及ぼす影響とはこういうものなのだろう。齢を重ねるとソノあたりの感覚はますますもって増進し、ピントのズレた料理など出されるとヨケーな不快感を憶えるのもつまらない話だが。
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 醤油に酒,味醂と砂糖を少々テキトーに混ぜたタレに短時間漬け込み焼く…ただソレだけのことなのだが、脂の乗った天然鰤には最もふさわしい調理方法であろうか。
意外に淡白な鰤の身に適度な甘辛さを加え持ち味を引き出す、あるイミ鰤料理の頂点かもしれない。
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 まるでウナギのタレのように濃度の高い煮ツメを塗ってよこす店もあるが、弁当でもない限りソレに強い個性を与えるのは鰤を殺すコトになる。
さほど濃くは無いのにしっかりと照りや適度な甘み,風味を付加するタレ・・・やはりちょっとヒミツがあるのよ♪

 最初は日本酒をちびりちびりと飲っていたが、食べ進むうちにもう少し強いのも欲しくなってくる。
そうだ、アノ酒があるじゃん!と栓を開けたのは鹿児島の本格焼酎に金柑を加えて熟成させたもの。
 神戸の友人から頂いた一本が夕食に華を添える。ストレートも良いがオンザロックスが金柑の香りや苦味を表舞台に押し出す。
芋の香りさえ味方につけているこの酒、想像以上にアマくない。