鯖のかぶら寿司  

 知らないほうが良かった…そんなコトもあるものだ。
「佳い品が見つかった」と云って友人が送ってくれたこの寿司がまさにその通りの一品であり、食べ終えてしばらくの間しみじみと空き箱を見ては考え込んでしまった。



 和歌山市にある老舗の名物らしいが「かぶら寿司」というのは初めてであるし、紀伊といえば秋刀魚というイメージが強かったので意外に思えた。
大袈裟なハコに飾られているわけでもなく、届けたれた包みが拍子抜けするほど小さかったコトにも驚いた。
  ■□■□■□■
 包みを開けると“創業明治弐拾参年 わかやま料理 安愚楽”と書かれた箱、そして中には押し寿司が入っている。
既に切り目が施されてはいるが、無理矢理離そうとすると崩れて見た目が悪くなりそうなのでそのまま皿に盛り付けるコトにした。
  ■□■□■□■
 ちょっと見はバッテラのようにも見えるが、表面を覆っているのはかぶらである。
上品な甘酢で調味されたかぶらの薄切りが鯖の身の柔らかさとのミゴトなコントラストを生み出している

 寿司飯の押し具合、鯖のシメ加減…完璧としか表現しようが無いほど素晴しい。
脂が乗りすぎていない鯖はかぶらのアシストを受け、その持ち味を十二分に魅せてくれている。
特筆すべきは青ジソや白ゴマ,生姜といった類のいわゆる「臭み消し」系が一切使われていないコトだ。
よほど味と品質に自信がなければこのような料理は提供できまい。


「美味い…」
というコトバもでない程ヨロコビが広がり、我を忘れてしまいそうだ。日本酒の量をコントロールするのはもはや困難な状態である。
 母君は「もうデパ地下でバッテラは買ってこないわ」と力強く宣言した。
ボクも同感であったが、こんな逸品を知ってしまったジブンの今後の人生には、いくばくかの不安を覚えるようになってしまった。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「鯖のかぶら寿司」を贈ってくれた神戸の友人は同時にこんなモノも届けてくれた。



丹波篠山といえば黒豆の超ブランド。
その枝豆なのである。
強めの塩で茹で上げ、熱々を口にすると濃厚な旨みが押し出しの強い香りと甘みを伴って拡散する。
旨い!究極といってもよい。
一粒一粒が大きいので、調子に乗って食べ過ぎるとすぐにオナカが一杯になってしまう。
こんな枝豆があったのか…地元の新鮮なモノかJA庄内の茶豆がサイコーと思い込んでいたジブンだが、世の中には知らなくてはならないコトがまだまだあるものだとハンセーしている。