狂乱のサミット・キャンプの片づけも終えヤレヤレだったが、間髪を入れず昼食に向かった先は明石なのである。
神戸市の中心部からは西へ20数km、フツーであればクルマなら30分程度で着く距離だが須磨海岸あたりからどうも雲行きがアヤしい。
そのうちにノロノロどころか停止している時間のほうが長くなってきた。キャンプの朝食は雑炊とそうめんだったので、いつもより空腹に達する時間も早い上、既に時刻は三時近くになっている。
遅々として進まないクルマの中でボクはムショーにハラ立たしい思いが募ってはいたのだが、同行者への配慮から平静を保っているフリをするのもナカナカに空腹感を増長させる原因だった。ソレは誰しも同様だったかもしれないが、運転していたGなどは露骨にイヤそーな顔と攻撃テキな発言を繰り返していたので、途中でその辺りの地理に詳しいI氏にハンドルを交代した時はホッとしたものだった。しかしソレもヌカ喜びとゆーヤツで、ボクたちを待っていたのはI氏の強引ウラ道全開突破暴走行為であり、このあと恐怖と絶望によって棺桶化したワゴン車の中でボクたちは小一時間過ごすコトになったのだ。
どうやら国道二号線の途中で祭事が催されていたのが原因だったらしく、死の恐怖から解放され明石の『ふなまち』さんに到着したのは午後四時を回っていた。
しかも先客が店外に10人近く待っていて、日没カウントダウンの西陽に刺されながら“待望の昼メシ”を忍耐強く順番を守り苦境を乗り切るしか手立てはなかったのね。
今か今かとクビを長くしてコールがかかるのを待つボクたちのハナ先をかすめて行くタマゴの焼ける匂いやソースの香り、聞こえてくるジュ〜ッ!という悩ましい音の誘惑に耐えながら30分以上は待っただろうか、やっと店内へ進むコトを許された。
テイクアウトする方もいるので、二人のおねーサマは休むコトなく“玉子焼”の調理に向かっている。
手元に見えるのは鶏卵と沈粉(じんこ)と呼ばれる小麦でんぷんをダシ汁で溶いたモノのホカはタコのブツ切りだけだ。焼き型が銅製なのでキズなどをつけないように菜箸を用いて返す作業をする点もフツーのタコ焼きと大いに異なる点である。
さ〜て、やっとありつけるのよ昼ゴハン。まな板のような木皿はゲタ状の脚が付いているが手前が低く奥が高いという独特の形状で、食べやすさばかりでなく、洗浄後の水切れも考慮したカタチだ。表面に塗料を施していないのは焼くときの油や水分を吸しやすくベタつきを抑える工夫がしてあるのだろう。
撮影記録の時刻だと16:54となっており夕食の時間になってしまっているが、もう単なる空腹といった状態は通り越してしまっているので今更アセっても仕方がない。ソレよりヤケドをしないように注意深く口に運ぶ必要がある。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うっわ〜!はふはふ〜めっちゃウマ〜♪ヤバイっスよコレ…はふはふ〜」
ドコカで聞いたセリフではあるが、やっぱりそーなのね。
慌て者のGは「ヤケドした〜」と騒いでいるが「オラ知ったこっちゃねーよ…」ってなカンジで皆黙々と食べている。ふわふわトロリの玉子焼の中から異なる食感のタコが出てきては不思議なコラボレーションを展開する。
あ〜コレが明石焼の本場バージョンなのね〜
ダシ汁は温かいワケではなく常温程度にされている。熱々の玉子焼を少し冷ましてやるといった効果も狙っているのだろう、ヤケドをしたヤツはダシもつけずに口に運んだのか…と今になって笑いがこみあげてくる。
葱または三つ葉といった薬味を想像していたのだが、ソレすら入っていない。ちょっと拍子ヌケしてしまったのはボクだけはなく、同行者は皆そう思っていたようだ。
薬味入りはもちろん美味しいのだろうが、昔ながらのこの食べ方を頑なに守り続けるこの店のシンプルさがまたとてもよく感じるのも面白いではないか。
テーブルにはドロリと辛いソースも置いてあり、スキなヒトはソースを塗ってからダシ汁に浸けて食すのだという。ボクも試しにソースでひとつだけ食べてみたが、またベツの楽しみがあってソレもいいにゃ〜と思った。
一人前20ケで¥500…税込だからホントにワンコイン。
圧倒テキなコストパフォーマンスにただただ呆れるばかりの「明石の玉子焼」なのであった。う〜ん、また食べたい…
◆ふなまち
兵庫県明石市材木町5-12
TEL:078-912-3508
営業時間=10:30〜18:00
金曜定休、月1回程度木曜休
→地図