タマゴタケの炊き込みご飯

ジツはタマゴタケには一度お目にかかっていた。
数年前、清里でペンションの裏にある雑木林を散歩していた朝に、いくつもキノコが出ているのを見つけたので珍しく思って撮影して来たのだ。

帰宅後この写真を知り合いのキノコ博士に見せると顔色が変わった。「何で採って来なかったのか…美味しいキノコなんだよ!珍しいし」とコーフンしている。そう言われてもねぇ、こっちはトーシローなんだからさ。
博士の解説では左は猛毒のベニテングタケで白雪姫の本に挿入されているイラストなどによく描かれているヤツだ。そしてそのスグ近くにいくつもカオを出していたのが右写真のタマゴタケなのである。


そうか、惜しいコトをしたなぁと思いつつ、仮にまた見つけてもコワくて採ってはコレないよな〜と半分諦めていたボクなのだ。
ところが先日“富士山やさいセンター”に行くとそのタマゴタケが売っているではないか。ウ〜ムこれは購入するしかないじゃん♪と大小いつくかが取り合わされたパックを¥500でテに入れたのよ。
首都圏のレストランシェフが天然モノのキノコを求めてコッソリ買いに来る…という同センターのウワサは真実だったのだ。自然に任せて採集してくるので不定期かつ不確実ではあるが、まさに旬の天然キノコが格安でモノにできる場所はそうあるものではない。
もう少しするとキヌガサタケやイグチ属も入荷するというから小マメにチェックに行くしかないようだ。

生で食すコトのできる数少ない天然キノコのひとつだが、初めて食すのにナマと云うのはいささか勇気が必要というか躊躇を感じる。煮もの・炒め物・天ぷらなどが好適な調理方法と云われ「特にダシ成分のスバラシさはサイコーだよ!」という博士の助言も思い出し、ボクは“炊き込みゴハン”を選択した。
表面に付いた枯れ草や土などをそっと取り除きテキトーな大きさにカットしてゆくが、この時点で香りというものは殆んど感じない。カサは柔らかく強く握れば崩れてしまいそうなくらいホロホロと軽いし、軸もストローのように中空で見た目よりも繊細なキノコである。
基部についている白い“ツボ”をはぎ取っていると中からムシが一匹飛び出してきた。都合のよいねぐらにしていたのだろうか、中空の軸の中にも潜んでいるコトがあるので生で食すトキには注意が必要だ…と資料にあったのも頷けるハナシなのね。

一緒に炊き込んだものは人参・油揚げだけである。ヨケーなコトをせずにタマゴタケ本来の旨みと香りを楽しんでみたかったからだ。昆布とカツヲでとっただし汁に醤油や酒などを加え若干の塩で味を調える。
炊飯器のスイッチを入れてしばらくするといい香りがしてきた。生の時からは想像もできない甘い香りが台所に満ちている。今まで経験したどの種類のキノコとも違う独特のものがあり、欧州で「皇帝のキノコ」と呼ばれているように非常に品の良い高貴な香りなのだ。
   ◆◇◆◇◆
さぁ、お待ちかねの食事タイムだ。
鮮やかなオレンジ色だったカサは見る影もなく茶色に変色してしまったが、やはり生キノコならではの柔らかで滑らかな食感を残している。もう「美味いっ!」としか言いようのない複雑かつマイルドな旨みが衝撃テキだ。ゴハン全体にシミ込んだ香りがキラキラと輝くようにクチの中に拡がり「もうコレさえあればホカのオカズなんて要らないもんね♪」といった様相を呈している。
そんな例えようのない素晴らしいお味がこのキノコを皇帝と言わしめているコトの証しでもあるし、幼菌の可愛らしい姿からは思いもよらないふくよかなエロティックさを持つキノコがタマゴタケの実像だったのだ。



参考資料
社団法人農林水産技術情報協会
http://www.afftis.or.jp/kinoko/103.htm




Sora

9:49AM, August 09. 2009.