忘れかけていた“あの味” 喫茶店ランチの王道『ナポリタン』

清水に在る輸入雑貨店へプレゼンに出かけたのは先々週のことで、ちょうど近畿地方に大きな被害をもたらした台風が日本海へ進んでいるころだった。
雨はあがったようなしかしこれからもまた降るようなびみょ〜な気配だったが、そんなことより兎に角ハラがへったので昼めしなのだよ。客先で出されたコーヒーが空腹感を加速させていた。

その近所には老舗のとんかつ屋さんと讃岐うどん店があるが(でもなあ…ドッチも行ったことがあるしさ、やっぱり新規開拓もしたいじゃんね)とアテもなくクルマを走らせ美味そうな店を探していると、なんだかイカニモな喫茶店を見つけた。
ちょっとログハウス風の作り、ボクが未だ大学生だったころ静岡や清水で流行していたスタイルの建築は、そこが昔ながらの喫茶店であることを如実に語りかけてきた。何の確証もないし事前情報を持っていたワケでもないが、ただピンと来るものがあった。コレだよ、コレコレ!
扉を開けるとカランコロンと鳴るカウベル、ウッディーな店内、書棚にズラリと並ぶ雑誌や漫画コミック、スポーツ新聞… 「あぁ、あの頃のまま…」とブレバタの曲が思わず脳裏に浮かんでくる。

店内にはオーナー殿の思い入れがあるのか、店名にちなんだマザーグースのグッズがアンティックなものから最新のものまで多数ディスプレイされている。ちょっとメルヘンな世界が老若男女を問わずに受け入れてくれる器になっているようだ。
当時は禁煙席などという概念はなく各テーブルには必ず灰皿が置いてあって、気に入ったものがあると盗んで帰ってしまったことがあったのはもう時効だから白状してもいいだろう、ごめんなさい。実家にはそんな戦利品がいくつもあって、中には“たち吉”の高級品まであるのはちょっと自慢だったりもしてジツはごめんなさいと言いつつハンセーも怪しいのだな。脱線。
窓際の席に就いてメニューブックを拡げると、やはりムカシながらの献立が並んでいた。パスタなどというシャレたナマエではなくスパゲティー各種。煮込みハンバーグ、ピラフ、サンドイッチ、ホットサンド… そして“当店特製ブレンドコーヒー”… コレだよ、コレコレ!
そういえば近年のカフェにはアメリカンコーヒーってのが無くなったなあ、いやボクはあーゆー薄いヤツは好まないのでいいんだけど、全体にシャビな飲料が好まれるのでコーヒーも最初っから薄くつくってあるからなのかも知れないなあ。また脱線。
どのメニューも捨て難く迷いに迷った。しかしそんな時は王道路線で乗り切ればいいのだ、たいていはお店の看板メニューであることが多くハズすことは稀である。「ナポリタンのセットをお願いします」ボクは自信を持ってこう頼んだ。

トマトソースなどという気取ったものではない。ケチャップがベースのソースはガーリックさえ入っていないフツーの味、それこそがナポリタンなのだ。ベーコンとウインナソーセージ、タマネギ・ピーマン・水煮缶マッシュルーム。これ以上でも以下でも成り立たないプレシジョンなスタイルがここにある。
そして食してみれば“あの味”がクチに拡がる。特別に凄いといったものはない、というか必要がないのである。あるのは当時の家庭料理ではなかなか再現し難かった洋食フレーバーたっぷりのアレなのだな。当然の如くここは乾燥パセコンでなければならない。生パセリのコンカッセではこのなんとも言えない香りは出てこないのだな。そうそう、トッピングのチーズもパルミジャーノをすりおろして…なんてのも邪道なのである。勝負どころには“粉チーズ”、かくしてサテンのナポリタンが完成する。美味いなぁ、コレだよ、コレコレ!
食後のコーヒーとタバコ一服を同じテーブルで過ごすシアワセを久しぶりに味わった。チェーンのコーヒーショップや小ジャレたカフェに押され、すっかり少なくなってしまった喫茶店だが、こうしたお店を求めて次々に来店客があることにホッとする思いだった。



マザーグース ( Cafe & Restaurant )
静岡県静岡市清水区南矢部557-1
TEL=054-353-5265
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鳩去るも 鈍感な迄に 白泥鰌



Afternoon, September 08. 2011.