生魚をドレスのように身につける奇怪な行動とか、急に女装が趣味になってしまいましたというハナシではありません、 " ドレス " という業界用語について先ずはお話しましょうか。
未冷凍の魚が丸のままを " ラウンド " 、内臓だけを除去したものが " セミドレス " 、頭と内臓を取り除いたものを " ドレス " と呼ぶそうです。もう少し突っ込んだ用語もありますが、これくらいでハナシの意図はお解りいただけるものと思います。
先日魚屋さんの店頭にあった浅羽カレイはまさにその " ドレス " なのでありましたが「子持ち」ということで魚卵は除去されていないのですね、ちょっと " スペシャルなドレス " ってことになるのでしょうか。
とても新鮮で大きな魚体、成長の遅い浅羽カレイの中では最大クラスかと思われます。お買い物中ですが既に頭の中は酒の肴にこいつを箸で突くエロおやぢの姿があるのでした。
■ 浅羽カレイの煮つけ
浅羽カレイは近海で漁獲されるカレイ類の中では淡白なお味…そう、ストレートに言えばお味に深みがなく旨味も少な目なのでありますが、加熱しても失われることのないふっくらとした身肉が特徴なのでありまして、唐揚や煮つけに向いているとされています。
ボクもそうした調理方法でしか食したことはありませんが、きっと獲りたての新鮮なものならばお刺身だってそこそこにイケるんじゃないのかとは思いますけどね。まあソレは置いておき、セオリー通り「煮つけ」に取り掛かります。
醤油・砂糖・酒・みりん…といった基本調味料の組み合わせでごくフツーに煮魚にしますが生姜と鷹の爪は必須です、これがないと煮魚としては完成しません。そして必ず添えてみたくなるのはネギなどの香味野菜です。
夏の盛りなら獅子唐や万願寺唐辛子、或いは茄子など添えるのも季節感があっていいものですよね。今は寒い季節なのでゴボウと根深ネギで勝負です。根深は予め焼目をつけておいたりゴボウは下茹でが必要などテマヒマのかかる副菜でありますが、こうして煮魚に添えてやれば他にはない懐の深さを発揮してくれるものなのですな。
根深のジャキジャキとした食感とそれに相反するようなねっとりとした粘りと甘さ、噛みしめると冬の冷気に対抗するように蓄えられた滋養のエキスとでも言えばいいのでしょうか、春を迎えるためのエネルギーを感じるものです。
そしてゴボウからじんわり伝わってくる大地の香り、これもまた甘辛いお醤油味にしっとりと馴染んでゆくものなのですね。そしてゴボウにはチカラ強いお味や香りに加え華やかな世界を全てリセットしてしまうようなシブいヴィジュアルがあるのでありまして、これがまた服地の色ならばベージュサンドレのような何にでもフィットする心地よさと安心感を併せ持っているヤサイなのですよ。そう、洗い晒し着晒しの丈夫な普段着みたいな存在ですかね。
まあ煩悩に塗れたエロおやぢはこうした清廉なヤサイたちに対して、あーでもないこーでもないとヨケーなことばかり押し付けるのでありますが、今回は浅羽カレイを美味しくいただくための大切な役割なのでして存分に活躍していただきました。
あぁ、何て美味しい『浅羽カレイの煮つけ』なのでしょう!ふんわり優しい身肉のお味、エンガワのねっちりとした食感と甘み、子のプチプチと楽しい舌触り歯触りにやや濃い風味の応酬…そんな煮魚に甘え溺れる食卓をキリっとした辛口で諫めてくれる日本酒が有難い。
哀愁のイナカ町にもこんないい酒があるんだぜ…ちょっとヒト様に自慢したくなる酒ですが、ハンパな気持ちでは「げんこつ」を喰らいそうなスルドさも持ち併せていて、食卓に並べる料理にもソレナリな神経を払わなくてはならないのです。