■ 『つぶ貝の塩茹で』と『若竹煮』
懐かしい味
そう珍しいものではありませんが日常的にあるわけでもなく、見つけるとついついカゴに入れてしまう北海道産の「つぶ貝」です。釧路に住んでいたころよくいただいた懐かしい味でして、当時は「塩茹で」よりも「網焼き」のほうが多かった記憶があります。
焼網に乗せ、クツクツと頃合いのころにお醤油をチャッと射して調味します。あふれ出た貝汁と醤油が貝殻のフチで焦げ、もうなんとも素晴らしく香ばしい匂いを放つわけですよ。
そんな風に「網焼つぶ貝」を食してみたいものですが、コンロの後始末のことなどを考えるとついつい「塩茹で」のほうに走ってしまいます。
本当に塩のみで茹でたものも美味しいのですが、ボクは若干の酒と色付け程度のお醤油を加えます。ちょっと品の佳いお味になってサイコーの酒肴じゃありませんか。
ところがこのテの巻貝料理全般に言えることなのですが、身とワタの取り出しですね、こいつが非常に難関とでも言いますか、毎度けっこー苦心するのです。爪楊枝あるいは竹串などを開口部から差し込み、くりくりっと…言うのはカンタンですが、実査にやってみるとこれが一筋縄ではゆかないケースがほとんどです。
ガサツにコトを進めると身肉は取れてもワタは千切れてサヨーナラ、カラを割らない限り絶対に取り出し不可能な迷宮の奥にその究極の美味しさを押し込めてしまうことになるのです。
あせらず騒がず、じっくり螺旋状の往復運動を繰り返し、濃緑色とマスタードイエローのストライプがクリっと出てきた時のヨロコビ!もうその達成感たるやもう例えようがないのであります。
そして見事に凝縮された海の滋味…ただでさえ濃い「つぶ貝」の身肉の風味にまったりとした旨味のワタが絡み…あぁもう、あぁ…と目をとじてその美味しさを味わうわけです。
よく考えてみたら駄洒落テキ料理名
そんな『つぶ貝の塩茹で』で一献傾けながら『若竹煮』ってものをいただくわけです。北海道と静岡の春を同時にいただく贅沢、ちょっとだけ冷やした日本酒がいいキブンを増幅させます。
新筍、春獲りの若芽、山椒の新芽…この三つの旬が出会う妙が " 和食 " の素晴らしさですね、世界文化遺産として認定登録されるだけのものはあります。はんなり優しいお味と其々が持つ食感のコントラストがいつまでも食べ続けていたいキモチにさせてくれます。
ただどちら様が名付けたのかは知る由もありませんが『若竹煮』というナマエは、よく考えてみたら駄洒落テキな料理名じゃありませんか。新筍は別名「若竹」ですが、ワカメとタケノコでワカタケかい…うふふですなあ。