マテ貝の直火焼  

しょーもない田舎のスーパーではあるが、鮮魚のコーナーにはときどきハッとする珍品が入荷している。
昨日はブクブクと空気が送られるトロ箱にこのマテ貝の姿を見つけ、網の上で醤油の焦げる香りを連想してしまった。

 この辺りでは採れない種類の貝であり、映像でしか見たコトのないモノだっただけに実物の大きさに興味があった。直径が2.5〜3cm長さ10〜12cmといったトコロだろうか。思ったより貝殻は柔らかく薄いが、重みはやはり貝そのものである。
岡山県産と明記されていたので瀬戸内の豊かな潮の中で育ったのだろう、いよいよ迎える貝の旬である春に先駆けて出てきたマテ貝には重い期待が集中する。
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 旅グルメ番組などでは浜や港で炭火を起こしては地の魚介を焼いたりして食するのをよく見かけるが、とうてい簡単にはマネのできるものではない。家庭ではガスコンロに網を乗せてマネゴトをするのがせいぜいではあるが、それでも満足のゆく味が楽しめるというものだ。
噴き出た潮と貝のエキスが焼き網にこぼれ、アノよい香りが生まれる。
マテ貝は二枚貝であるが、焼きあがってもハマグリのようにパカーンと口を開いたりしないのだ。筒状の身が貝殻の側面までしっかりと一体化しておりナイフで切り目を入れてやらなければならなかったのね。
恐る恐る開いては醤油をハケで塗り、そのトキがやってくる。
立ち上るケムリと素晴らしい香り、そして弾力のある身に包まれた濃厚なワタ…こんなに美味しい貝があったのかと驚いた。
瀬戸内の方々はジツにシアワセな春を迎えるのだろう。