古民家の蕎麦屋『蕎仙坊』   

およそ20年ぶりになるのだろうか、この名店のコトはすっかり忘れていたのだが先日出張シゴトの帰りに偶然通りかかって思い出したこの店を、昨日とうとう訪れてみたのだ。

以前は富士宮からは小一時間かかった距離だが、山の中を突っ切るリッパな道路が完成して30分程度で到着してしまうあっけなさに「なんだ、こんなに近いならとっくに来ればよかった」と思いながら向かったお店の入り口には先客が既に並んでいる。開店の11時30分にはまだ少し間があるのだが30台分ほどの駐車場もほぼ一杯というトコロがこの店の人気を物語る。
席に案内され注文を済ませて待つ間、庭や店内の調度品を眺めては楽しむ時間が心地よい。以前は別荘として使われていたという築400年の庄屋屋敷を改装して蕎麦屋として営業しているのだが、開店当初からのスタイルを変えずに手打ち蕎麦を提供し続ける御主人の信念の強さも尊ばなければならないだろう。 

サイドーオーダーの「鴨肝の山椒煮」を食してみる。蕎麦屋にある酒肴はひと通りラインナップされているが、ちょっと珍しいこの料理にはやはり日本酒が欲しくなる。
クルマでなければ…という無念さを滲ませながらも、箸で一つまみ二つまみするともうやめられなくなる美味しさだ。
甘さと山椒の風味はかなり控えめにしてあり醤油の辛さがパッと先に立つが、ソレも蕎麦を美味しく食べてもらうための工夫なのかもしれない。

注文した蕎麦は「天ぷらつき二色そば」で、外皮に近い部分を挽いて極太に切った田舎蕎麦と一般テキな細切り蕎麦を盛り合わせたものに大きな海老天と茸の天ぷらが付いている楽しい料理だ。
まるでカンジキのようなザルから田舎蕎麦を先ずは食してみる。しっかりした歯ごたえとそばの香りがガツンとくる蕎麦だろうとは想像していたが、噛むと云う行為を強く意識させる蕎麦は女性をはじめとした方々にはあまり向いていないかもしれない。注文を受けてくれるお店の方もソノ辺りはキチンと承知していて大丈夫かと念を押してくるのだ。
しかしいかにも“蕎麦そのもの”を体感できるものとしてボクはキライではないし、添えられた大根おろしとの相性は抜群なのだ。
そして細切り蕎麦のほうは鰹ダシの効いた辛口のツユにマッチして申し分のない美味しさなのである。刻み海苔がかかっていないのは蕎麦の風味を大切に味わってもらいたいと云うお店の主張なのであろうし、妙に気取った部分もない提供の仕方には非常に好感が持てる。

面白かったのはボクよりアトにオーダーしたお客さんの料理のほうが早く出てきていたコトなのだ。フツーならエェ〜?なのであるが、よく考えてみるとボクは鴨肝を頼んだのね。
多分だが、厨房では「この席の客は先に酒を楽しんでいるのだろう…」というコトでメインの蕎麦の提供時間をズラしてくれたのではないか、と想像するワケだ。
ウラ目には出てしまったがこうした気配りが“もてなしの心”なのよね。接客も然りで店内の随所にそうしたものの片鱗をのぞかせている蕎仙坊さん、旨い蕎麦打ちは数多あるがココまで徹底しているお店はそうあるものではない。
遠方からの珍しいお客様も安心してご案内できる蕎麦屋としてひとつ記憶にとどめておこう。





蕎仙坊(きょうざんぼう)
静岡県裾野市須山1737
TEL:055-998-0170
11:30〜18:00(※夜の会食の予約は応相談)
月曜定休&第2・4火曜日

地図



帰り道は少し遠回りして
道の駅・富士吉田から富士山を眺める

2008.11.23. 14:22 @Road Station Fujiyoshida