あの頃の『ホル丼』とは違うけれど

二年ほど過ごした四畳半一間の学生下宿「富士見寮」は静岡市の池田にあった。下宿と云っても賄つきではなく台所・風呂・便所…全て共同の粗末な造りで、その住人もボクが通っていた大学の学生だけでなく一般社会人や近くの女子短大のおねーちゃんたちも入り乱れて入居しているハチャメチャなアパートだった。

世の中が豊かになったので今ではそんなスタイルは有り得ないが、セキュリティやプライバシィもへったくれもないそんなコミュニティもけっこー居心地が良くて、みんな仲良く暮らしていた。
台所一体型の便所は男女の区別なんてなく、洗い物や調理をしている背後で短大のおねーちゃんが用を足している小部屋からプウなどという音が聞こえてくることもあって、いろいろ滾りまくっていた若者はあちこち固くなったり熱くなったりしてしまうのであった。
そんなある日、隅の部屋に住んでいた女子短大国文科の理恵ちゃん(当時18歳:本名)が「今日は出前とるんだけどさ〜Artクンはどーする?」と訊いてきた。そう言えば玄関わきのピンク電話には近所の中華料理屋さんの出前献立表がブラ下げてあったっけ。
ここの『ホル丼』は美味いんだよね…そう言いながら理恵ちゃんはセブンスターの煙をプハ〜と吐いた。ボクはバイトの給料日前だったので出前は断念したが、その『ホル丼』という料理の名前がみょーに脳裏に焼き付いてしまって、どんなモノなのか見せてもらう約束をして出前の到着を待った。それは今で言うと“豚カルビ焼肉丼”みたいなものであって、厚切りにした豚バラ肉がいかにも甘辛そうなタレで焼きあげられていて丼ゴハンにドッサリと乗せられているのであった。あ〜ボクも食べたかったよね…
しかしホルモンなど内臓肉を使っていないのに『ホル丼』と名付けたのはどうしてなのだろう… 未だにフシギに思うが、語感に勢いや高揚を感ずるものがあっていいなあと思うのは“スタ丼”と似ているかも知れない。
あの頃の料理とは違うけれど『ホル丼』を“とんころホルモン”という神奈川県のB級グルメ味付け肉で作ってみた。美味かったけど、ちょっとだけ甘酸っぱい思い出も蘇るエロおやぢなのであった。



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