1955年創業の老舗で味わう『 焼そばとラーメン 』

茶畑や椎茸栽培の風景にココロが癒され、キンツバで小腹も満たされたボクは「紫陽花の写真も押さえたけど、このまま帰るのもナニだよな…」と竜爪街道を南下し北街道に出るとそのまま静岡市の中心部に向かった。
間もなく北街道も終点に近い場所に以前から気にかかっているお店が一軒あるのだ。ボクが静岡に戻ってきて大学生だった頃にはこのお店の看板は既にココにあったのであり、ソコで食事をしようなどと思ったことは一度もなかったのに、一年ほど前に通りかかって改めて眺めるとジツにいい店構えをしていることにナゼか気付いたのである。

“ 焼そば 餃子 ”の文字がバーンと看板に掲げられ、紅い暖簾に白ヌキの「松竹」が自信たっぷりのオーラを放っているではないか。もう喰う気モリモリなのである。
お〜し、今日はいっちょココで焼そばを試してみようではないか! とお店のウラにある駐車場にメガーヌを停めた。暖簾をくぐると既に先客が数名いて提供を待っている風であった。店内には白いテーブルが整然と並び清潔に保たれている。
いわゆる看板メニューである焼そばと餃子は外せないが、ホカにもチャーハンやラーメン・ワンタンなどがありもう一品をドレにするか迷うのである。しかしココは基本を踏まえてフツーのラーメンと云うのが初心者の常識だろう。
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間もなく運ばれてきた焼そばを見て驚いた。ニクはおろか具らしいものはほんの少々のキャベツだけ。しかも刻んだナルトがトッピング…
なかなかにショックだ。
味付けは甘みのほとんどない辛口ソース一発というカンジでまるでインスタント焼そばの粉ソースのような風味さえ感じるイナタさがある。

おやおやと思いつつ焼そばを食しているとラーメンと餃子が運ばれてきた。う〜む、ラーメンはスグに食べないとつまらないので焼そばは一時中断してソチラに取りかかる。
スープを啜ると懐かしい醤油味がクチに拡がった。美味い♪ 
麺は中細ストレート、叉焼が二枚にシナチク・ナルト・海苔・ネギというラインナップは超コンサバで見た目だけでも満足だ。 鶏ガラベースのスープは若干濃いめの色合いだが優しいお味で「あぁコレだよコレコレっ!」と胃に馴染む支那そばの系譜なのである。
シナチクのコリコリ感は既製品にはないものだし、叉焼の柔らかさは近年流行の煮豚系とは一線を画した旨味に満ちていて素晴らしい。しかも二枚も入っているではないか。
麺とスープのマッチングはカンペキに近く、薄らと脂が浮いた醤油味スープにサラリと絡んでいいカンジだ。たいていラーメンを食すときはコショウをパッと振って楽しむボクだが、ココではすっかりソレすらも忘れていた。そのくらい美味しいラーメンなのである。
因みにお値段はポッキリ¥500だ。
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餃子も静岡の餃子らしい味だった。浜松餃子とも違うし横浜中華の系列でもない独特の味と香りはたっぷり入ったニラに依る部分が大きいのではないか。静岡に戻ってきて初めて餃子を食したときにはそんな風味に驚いたものである。

慣れてしまうとソレがたまらなくスキになってしまい、ホカの土地の餃子では物足りなく感じてしまうカラダに変化していた。コレで6コ¥400ですか、良心的にもホドがある…って有難いではないか。やはりビールへの想いは粛々と進行増大してゆくワケで、今思うと追加オーダーして土産に包んで貰えばよかったかなぁと後悔している。
ところでその焼そばなのだが、当然“ 焼そばの町・富士宮 ”からやってきた者としてはハードルは高いワケであって評価はつい辛口になりがちである。ぼくも最初はココの焼そばには「久々の大失敗かよ…」と少しガッカリしながら食べ進めていた。しかしこのストレスの少ないスタイルにだんだんソレが誤った解釈であることに気付き始めた。
お祭り屋台の焼そばから一歩進化させた味…などと飾り事を言うのはシツレイな話なのであって、もっと深い情のようなものが浮かび上がってくるのである。 様々な具を入れてお手軽なグレードアップは容易なことだろうが「ウチの焼そばとはコレなんだ!」という確固とした歴史と信念があるのではないか、そんな気がするのである。そう思い直して食してみるとこの¥500の焼そばがなんだかとても美味しいもののように感じ始めたし、小さい頃からこの味に馴染んできた人々にとってはこの無上のシンプルさがいいんだろうなぁと改めて思ったりもするのだ。
訊けば焼そばもラーメンも麺は自家製麺だという。う〜む、なるほど。
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夢中になって食していたので時間はあっという間に過ぎていた。気づくと店内は満席、立って待っている家族さえいる。

テイクアウトで来店するお客さんもかなり多いようだ。ひっきりなしにお店の引き戸が開けられ焼そばや餃子の包みを抱えたヒトが出てゆく。
来店客はイカにも「ムカシから通ってます」といった風情の単独老人から、三世代でニギヤカにやってくる家族連れなど様々で、このお店が地域の人々から愛され支持されていることがうかがえる。
そして誰もが松竹さんの料理に満足して店を後にする姿を見るとこの焼そばがタダモノではないことをひしひしと感じるのであった。
あ〜またラーメンも食べたいし、チャーシュー麺はたったの百円増しの¥600だし、餃子も焼そばもワンタンも…と限りなくヨクボーが滾ってくる。地方都市とはいえサスガに家康が晩年を過ごした徳川の直轄地で県庁所在地でもある静岡市はいいところだなぁ…と羨ましく思うのである。


松 竹
静岡市巴町20
TEL=054-246-9498
ACT=11:00−19:00 月曜定休&第三火曜
地図




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