厚岸の牡蠣  

 知らない町で突然旧友に出逢ったような気持ちになった。釧路に住んでいた頃はよく食べた厚岸のカキは静岡に移り住むと同時に無縁なモノになってしまったが、まさか清里で再会するとは想像もしないことであった。

 明治時代の初期から行われてきた厚岸の牡蠣養殖は現在も同町の大きな産業基盤でもあり、またその食味の良さも従事者の自慢であるに違いないだろう。
他の産地の牡蠣に比べると大振りで北の海の滋養をたっぷりと貯め込んだ身は、例えるならば毛ガニの脚肉のように上品でピュアな潮の香りがする。
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 厚岸のカキそのものも久しぶりだが、カキフライも随分なご無沙汰だった。革工房メーリーマック・石原氏の案内で行ったこの店は清里・萌木の村の脇にあるカフェであるが、何度もその前を通りかかっているのに今まで縁がなかったのもまさに「この時期に来なさい」という導きだったのかもしれない。


 オーナーでありまたお一人でこの店を切り盛りする丸梨枝さんのセンスがぎっしり詰め込まれたエクステリアとインテリア。
 冬季はサスガにつらいがテラス席もあり、春秋の気候の良い時期などには格別のロケーションで食事が楽しめる。
そこで出会ったカキフライは全てが手造りと云う丸さんの想いが込められた一品であり、最上のお膳立てで頂けたコトに何とも言えぬ幸福を味わった。


 既製品はもちろんヨケーな調味料や添加物を使わないという姿勢で取り組んだ料理は、食べ終えた時ジツに爽快な余韻を残す。釣り好きなご主人の人脈で入手する各種の食材が見事なハーモニーを奏で、訪れる人の心に優しい陽射しをあててくれるようだ。
 メニューブックを見ても献立そのものはかなり絞られているが、それだけ魂のこもった仕込みがなされている証でもありどれを頂いても期待に応えてくれるだろうコトは想像に難くない。
 左写真は中高年の男性に意外と人気のあるというオムライス。特製のソースがタマゴにフィットして満腹というコトバを忘れる。


 大型の薪ストーブが置かれた店内は八ヶ岳高原の寒さをものともしない暖かさが溢れ、上着を脱いでくつろげる快適さで迎えてくれる。
シーズンオフの清里は人の気配も少なくちょっと寂しげだが、ボクは逆にこうした時期にこの地の素晴らしさを実感する。
 JAZZが流れる静かな店内で食後のコーヒーを飲みながらふとそんな想いがしたのだ。






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カフェ『エフェメール地図
山梨県北杜市高根町清里3545-2441
TEL/FAX : 0551-48-3546
E.Mail:riemam@plum.ocn.ne.jp