塩引き鮭とイクラ丼

世界遺産となり今まで以上に多くの観光客が訪れるようになった知床、その漁業基地であるウトロから今年も鮭が届いた。

母方の親戚が二軒あり、毎年この時期になると塩引きの鮭をイクラとともに静岡に届けてくれるのは有難いコトである。冷凍技術の発達していなかった昔はサケにたっぷりの荒塩を擦り込んで風に吊るしては水分を抜き、長期間の保存に耐える新巻鮭をドコの漁師も作っていたが、今ではテマヒマがかかるため少なくなってしまったし、そうした技能を持ち合わせた後継者も少ないのだと云う。
てっとり早い冷凍甘塩の鮭は身も柔らかくジューシィで美味しいが、こうして塩なれした鮭は凝縮された旨味と風味があって全くベツの世界の美味しさが存在する。

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先に届いた一軒の荷を開くと大小二尾の鮭が並んでいた。ついリッパで大きな方にメがゆきがちだが、この体長60cmほどの小振りな方はまだ2〜3年の若い魚体でカラダにたっぷりと脂肪を蓄えているメスなのだ。
おろしてみれば判るコトでナイフに付着してくる脂の量はフツーのギンザケとは比べ物にならないほど多く、焼く時に滴り落ちる脂が目に浮かぶようだ。数日内にはこの切り身を焼いて朝食に…とニンマリのボクなのである。
そして同梱されていたイクラはいつもの醤油漬で、大切に育てられたサケの滋養が“赤いダイヤモンド”と称されるようにキラキラと魅惑の光を輝き放っている。
もちろん小細工はしない。
正々堂々、ドーンと「イクラ丼」でばっくりイクのよ♪ 姑息な刻み海苔や大葉と云ったヨケーな変化球は使わず、イクラオンリーの直球勝負。
コイツにはどんなバッターも敵ではない、三球三振で夕食劇場は幕を閉じるのである。