とんかつの老舗・静岡市呉服町『蝶屋』

体調の復活と共に先月あたりからミョーに「とんかつが喰いたい!」と云うヨクボーが漲っていた。富士宮やその近郊にもトンカツ屋くらいはいくらでも在るが、どーせ食すなら老舗の美味いものにありつきたいではないか…と静岡市内を目指した昨日だ。


同行者の日頃の行いが悪いせいか同じ雨天でも最悪の往路だった。叩きつけるような激しい雨粒はクルマの視界を遮りメガーヌのおバカオートワイパーに笑いつつちょっとコワイ思いをしながら静岡市の中心部に向かう。
案の定エキパは満車で流入ストップがかけられてはいたが、ちょっとしたウラワザを駆使してなんとかネジ込んだ。法令違反やモラルに反した行為をしたワケではなくヒトの思いつかないアイデアで勝負に出ただけなのだから御心配は無用だ。


JR静岡駅の地下に隣接されたエキパからは地下街と呉服町のヒサシ伝いに歩けるので、目的のお店までは傘をささずとも濡れずに行けるが雨は小降りになりかけていた。開店直後の11:40ほどに到着したのに店内には既に何人ものお客さんが座っていて、このお店のトンカツを楽しみにしている方が多いコトをいきなりメにする格好だ。
初めて来たのはまだ大学生だった20歳のトキでアルバイト先の新聞記者に案内されて訪れた思い出がある。その後何度か食事をさせていただいてはいるが、そのフンイキや狭い店内は少しも変わることなく今に及んでいる。


ボクが知ってからすでに30年の歳月が流れているものの、ジツはそんな時間はチョロいもので創業はなんと大正14年というから同じ洋食屋さんでもネンキが違う。戦前戦後を生き抜き今もこうして熱烈なファンを惹きつけて止まない老舗とんかつ屋さんの実力とは、飲食業界に関わるおシゴトでたかだか15年ばかりの新参モノであるボクには思いもつかないナニかがあるに違いない。
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以前に母君が食して感動した『串かつライス』である。タマネギ、茄子、根深、ロースとボリュームたっぷりのミックス串は二本分だ。
揚げモノは食べたいけど少しだけヘルシーなカツにしたいなぁ…という向きにはうってつけの一品で、ヤケドしそうなほどアツアツな中身からはジューシィな旨みがたっぷり出てくる。


ボクは本流の『とんかつライス』をお願いした。この“特上”は340gのビッグサイズだが¥2100で、並¥1800から始まる三段階の最上位に当たる。「肉の量の違いだけで質は同じモノですよ」と接客係のオネーサマが説明してくれた。並と云っても推定200g以上は確実にあるのでフツーの胃袋をお持ちの方ならソレで充分だろう。
“かつライス”の名の通り皿にはキャベツの千切りとパセリ・レモンしか添えられておらず、別皿でライスが運ばれてくるだけだ。味噌汁は別売の赤だし¥150のみ。オシンコなども付いている定食とは違うのでご注意願いたい。しかしこの赤だしはトン汁系で若干濃い目ながらもジツにいい味、ぜひ一緒にオーダーされる方が良いと思う。
そしてなんと言っても蝶屋さんの名物はトンカツにドバッとかけられたケチャップにある。なぜかビールビンに入れられたケチャップは、揚げあがったトンカツを油切もソコソコにまな板の上でザクザク切っては素早く皿に乗せ、またしても素早くビンを逆さまにしてドバドバをかけてよこす一連の動きにカウンターのお客さんの目は釘付けになってしまうのだ。
特製のケチャップなのだろうか、甘み酸味共にホドホドでジツにこのトンカツによく合う。ケチャップだけで食しても充分美味しいし、テーブルに置かれたソースとミックスしながら食すのも味わい深く楽しい。


「どうだっ!この厚みとミゴトな揚げ具合…」
やや薄ピンクにする厚切トンカツが多い中、しっかりと火を通しながらも水分を瑞々しく蓄えたニクに仕上げるテクニックは昨日今日出てきた料理人にはマネの出来ないワザだ。
サクサクのコロモと柔らかくふわりとした豚ロース…
素晴らしい、そして美味すぎる♪


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カウンターが10席ほど、壁密着ヨコ細長テーブルが二つで6席と小さなお店だ。カウンター席の後ろを通って店の奥に進むには「すみませんすみません…」とペコペコしながらのカニ歩き状態となる。
そんな中に年老いた従業員ばかりが6人もいるのはちょっと笑えて来るが、それぞれに役割分担がキッチリしていて連携プレイにもメを見張るものがある。ココにも昭和レトロの息遣いが生きているようで、ピカピカに磨き上げられた店内各所に“正しい飲食店”のあり方を教えていただくようだ。
ゴハンは釜炊きでとても美味しく、サービスの追加キャベツもバッサリとどんどん持ってきてくれるのは有難い限りで3回もオカワリをしているヒトもいた。
バックリ食したトンカツのワリにはスッキリと満足度マックスな食後なのである。とんかつ好きにはぜひ一度は経験していただきたい名店だ。



とんかつの蝶屋
静岡県静岡市葵区呉服町2-7
TEL=054-253-1739
ACT=11:30-20:00 月曜定休

地図






路上喫煙禁止の静岡市中心部
蝶屋さんの店内は禁煙ではないが、女性客も多いので食後は喫煙ルームのある喫茶店
ホッと一服
ソトに出ると呉服町通りにはまた小雨がパラついていた