■ その揺るぎない王座
ドンブリものの中で何が一番スキかと訊かれたならば、ナニはさておき『かつ丼』と答えるでしょう。ラーメンのように禁断中毒症状が出てしまったりはしませんけれど、そこにはドンブリ界の揺るぎない王座と確信に満ちた姿を感じます。
一般的なレシピの範疇では貧富の格差が生じにくいところもいいですね、デビ夫人が「ちょっとアナタ、何言ってるの?これがいいのよ…」と『かつ丼』を食していても違和感はないし、元国会議員のガー何某が留置場で差し入れの『かつ丼』を喰いながら「あぁフツーの人生を選べばよかった」と涙するシーンもあり得ることです。
そしてよく刑事ドラマなどでは容疑者に『かつ丼』を勧める定番シナリオがありますけれど、これが『天丼』ですと「ちっ、気取りやがって…」と反発を喰らう恐れがありますし、また『牛丼』では「バカにしやがって…」と逆上させる恐れもあります。やはりここは『かつ丼』でなくては心優しい刑事と恐喝まがい敏腕刑事の対比描写の伏線にならないわけですよ…って脱線っぽいですね、元へ。
哀愁のイナカ町スーパーで購入してきた " とんカツ " は冷凍保存してありました。適宜解凍しておき、あとはタマネギをスライスしたりダシツユを調合したり、そしてトッピング用の三つ葉を庭から引きぬいてきたり板海苔を炙っては揉んでおいたり…支度はいたってカンタンであります。
調理に使った胡麻油の香りが食欲をソソりますね…あ~美味いぜ、わっしわっし喰っちゃうもんね。留置場や取調室のお世話にはなりたくないけれど、誰か「おい『かつ丼』喰うか?」と訊いてくれないかなあ。こんな美味い『かつ丼』なら洗いざらい全部吐いちゃいますってば。