かつらぎ山パノラマパークを出発したボクたちは沼津港方面へ向かう。昼食はウナギ問屋が直営する蒲焼のお店か、港に隣接する施設での食事を考えていた。
主要道は混雑してるので沼津御用邸辺りからのウラ道を利用して千本港町へのルートを辿るが、その途中に以前からちょっと気になるお店があるのだ。
“和だいなぁ三”と控えめな看板が掲げられたそのお店は木立や生け垣に囲まれた和風建築で、通りかかる度に一度は覗いてみたいものだと思っていたのだ。
今回も横目でニラミながらそう思いつつ通り過ごしてしまったが、どうにも気になって仕方がない。同行者もかなり興味を抱いているようなので引き返すコトにした。どうやらランチも提供しているようだ…
リッパな門を通り石畳を進んでゆくとよく手入れされた庭園がある。派手な演出などは一切しておらず、まるでお金持ちが作った日本家屋の別荘をそのまま利用して隠れ家テキな料理屋として構えているような風情である。
ソロリと玄関の引き戸を開けるとムカシの匂いがする。手入れの行き届いた玄関には季節の草木・花々や趣味の良い調度品が置かれ、訪れる客のココロを和ませてくれる。
平日の昼は一日20食限定のメニューのみの営業であり『お好みご膳』という¥1280のセットコースだ。更科蕎麦か讃岐うどんを選び、4種の丼物からひとつを組み合わせるもので、小鉢やサラダそしてドリンクも付いている。オプションでお任せデザートがありコレはプラス¥300となっていた。蕎麦好きなボクはもちろん更科蕎麦で、関西出身の同行者は讃岐うどんをお願いした。
運ばれてきた盆には旬を感じさせる絵柄のペーパーマットが敷かれ、美しく料理が盛り込まれた器にも素晴らしいセンスとコダワリが偲ばれる。箸置き一つとってみても並の思い入れではないな…というコトが判るし、割り箸にさえ美しい和紙で留めが施されていたのには心底参ったな〜とココロ打たれるのだ。
サラダのドレッシングには和食にも違和感のないような配慮がなされていて、こんなドレッシングならいくらでも生ヤサイが食べられそうな気がする。かといって市販のノンオイルタイプのような腑抜けたカンジは全くなく、自家製のドレッシングでなければ味わえない風味に満ちている。
小鉢はちょうど湯葉のような舌触りと香りのする豆腐だ。トンブリと香草がトッピングされ、スルスルとストレスなく口の中で溶けてゆく様は普段なかなかクチに出来ない優雅なものである。
この日の魚のヅケ丼はイナダだという。ブリの幼魚なのでまだそれほど脂はのっておらずたいていは煮魚や塩焼などに利用されることの多い魚だが、ワラサと呼べる大きなものになる寸前のイナダではお造りにしてもかなりイケる。
当然特製のヅケダレなのだろう、しっかりシミ込んでいるのに塩辛く感ずる部分はなくジツに美味しい。茗荷や浅葱・白ゴマといった薬味の配分はまさにカンペキで、イナダの旨みを十二分に引き出しては感動を与えてくれるのだ。
駿河湾奥にある沼津近辺では青魚の回遊も多く、天然モノのアジやカンパチも多く水揚げされている。鮮度のよい海の幸が港の賑わいを後押ししては遠方から訪れるグルメを満足させくれるが、こうしたイナダも腕の良い料理人にかかればよりまた一つ上のランクとなって無二の逸品に変身してくれるものなのだな。
慌てて食べてはイケナイと思いながらもついついワシワシといつもの下品な食べ方になってしまう。サイコーに美味いので仕方がないのだ。
甘みさえ感じるイナダの切り身からは旬の魚からしか味わえないオーラが迸り出ている。こんなに新鮮な切り身なら、鳴門で食した鯛茶漬けのようにいただいてもよいのではないか…とアグアグしながらふと考えた。
蕎麦もうどんも美味しくて、存分に楽しんでは食べ終えた“お好みご膳”である。
食後のコーヒーは豆の炒り加減も程良いブレンドで美食のコーフンをゆったりと鎮めてくれるが、器がまた驚くようなカップとソーサーが用いられておりベツの意味でも楽しむコトができる。
ボクはコーヒーを飲む器としては手造り風創作陶器の類は好まないのであるものの、このお店のこの雰囲気の中で…という限定シチュエィションではミゴトにハマった選択だなぁと感心した。
いったどのような方がこのチョイスを行っているのだろう…
オプションのデザートは季節の果物をあしらったアイスクリームだった。最初の説明ではイチゴのアイスクリームという話だったのだが、どうやら売り切れてしまったようだ。
いやいやピンチヒッターの桃も旬を充分に漂わせては食す者に幸せを運んでくれるのである。アイスクリームには小豆餡、そして少し硬めの桃の果肉がツウの選ぶモモなんだなぁ〜と感激なのだ。
と云うのもちょうど前日テレビ番組で「桃の産地の方々は軟らかな果肉より硬いものを好むという傾向がある」と云うコトを見聞きしながら(そういえば死んだ父も硬い桃がスキだったなぁ)と思い出したりもしていたのだ。あまりの間の良さにちょっと出来過ぎなカンジもしないでもないが、食べたいなぁ〜と思っていたものがドンズバに提供されたりするのは嬉しくないハズはないではないか。
戦前か昭和初期のような落ち着いた佇まいの中で過ごす時間。日頃の喧騒から離れてゆったり食事ができる喜びが、都市から僅かな距離で存在することへの驚きがある。
ディナータイムにもぜひお伺いして格別な贅沢を味わってみたい…そんな思いでお店をアトにした。
◆和だいなぁ三あだち
http://www.numazu-wadaina3.com/
静岡県沼津市下香貫牛臥3078-5
TEL=055-935-6545
FAX=055-935-6544
ACT=12:00-15:00, 17:00-22:30
火曜定休 →地図