■ 嗚呼…憧れのパリジェンヌよ
『カヌレ』…何年も前からその名は知っていました。
ええ、知っていると云うことだけで食したことはありませんでした、正直に申し上げますと。
その邂逅は突然に訪れるのです。日々療養生活の中でアレも喰いてえソレも試したいと欲望ウズ巻く糧食への固執に埋もれ、すっかり忘却の彼方にあった『カヌレ』ではありますけれど、近所に開店したちょいハイソ系マーケットの商品棚にそれは無造作に転がっていたわけです。
あぁこれがその『カヌレ』ってものかい…その唐突な出会いはあまりに呆気なく、そしてパリの街角カフェで偶然に隣り合わせたパリジェンヌのように輝いて見えるわけです。
フォトも残っていないし記憶の中だけのカフェではありますが、コーヒーと簡単なサラダだけを目の前にしてパリの街並みを眺めていたあの時、実際は隣の席に麗しきパリジェンヌなんていなかったわけですけれど、なんとな~くそんなシチュエイションが生まれたって良かったんじゃないの?なんて回顧と妄想に耽るエロおやぢなのですな。
それよりこの『カヌレ』ね、見た目は強い色に覆われた焼菓子です。正式名称は " カヌレ・ド・ボルドー "…ってことはボルドー地方の伝統銘菓ってやつですね。独特のスタイルを持つ焼型を用い、蜜蝋+ラム酒+バニラ&バターがこの焼菓子のアイデンティティを決定づけているのですよ。
カリッと香ばしい表面なのに内側はしっとりと柔らかく、そしてごくわずかな抵抗を持たせた舌触りと滑らかさ…この二律背反とも言える様相が『カヌレ』の『カヌレ』たる所以でしょう。
あぁ何て美味しい焼菓子なのでしょう。もっと早く喰ってみたかった…と言っても哀愁のイナカ町ですからね、こんな『カヌレ』なんぞを売っているお店は存在しなかったわけでありまして、まあソレもエロおやぢの運命だったってことと思います。
香りの全て、食感の全てがこの5cmほどの小さな焼菓子に凝縮されているなんて信じられません、フランス人は何て罪なものを創造してしまったのでしょう。テマヒマとコストのかかる焼菓子だけに矢鱈にソコラでは造られておりませんが、ヘタなケーキ類をクチにするくらいならば、緻密でコンパクトな『カヌレ』にテを伸ばすほうが正解な気もします。
もう何時でも何度でも食べたい焼菓子。遅ればせながらベタ惚れってやつですな、嗚呼…憧れのパリジェンヌよ。